キャリア30年!第一線の現役のトップタトゥーアーティストが語る、現代日本のタトゥー事情とは。

独特の発展を遂げてきた、日本のタトゥー業界の伝統と革新の狭間で精力的に活動されている、キャリア30年の日本のトップタトゥーアーティスト、二代目 彫日出さん、ESTOさんのお二方にTHE INKへご来店いただき、現代日本のタトゥー事情、タトゥーサプライ事情について、お話しを伺いました。

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【二代目 彫日出 】プロフィール

Good Times Ink HPより

彫師キャリア30年。関西最大級のタトゥースタジオ、大阪アメ村「Good Times Ink」主宰。
日本伝統刺青の修行や、海外のTattoo Shopでの経験をもとに、本格的な刺青・タトゥーを提供。和彫り・洋彫りを始めとする幅広いスタイルに、独自のアレンジを加え 唯一無二の作品を日々創り上げる。
Instagram: @horihide_2

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【ESTO 】プロフィール

Good Times Ink HPより

大阪アメ村「JADE HEART TATTOO」主宰。
グラフティアーティストなどの幅広い経歴を持ち、海外タトゥースタジオでの経験が豊富で、アメリカントラディショナルやニュースクールをはじめとする、タトゥーカルチャーを象徴するスタイルを得意とするアーティスト。また、同じくアメ村にある「GOOD TIMES INK」でも定期的にゲストアーティストとして活動している。
Instagram: @enotse06

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■■インタビュー■■

お二人がタトゥーアーティストとしてのキャリアを始められた頃の、タトゥーサプライを含めたタトゥーシーンはどんな感じでしたか?

二代目 彫日出(以降彫日出)

90年代タトゥーイングに使用するニードルはバラの針をジグ(治具)と呼ばれる器具を使用して、ハンダ付けしたりして自分自身で作ってたね。師匠から教わって「おお、こうやって作るんだ」って感じはあったよね。技術もそうだけど、使う道具も彫師さん各々が試行錯誤しながらやってた感じだったね。

ESTO

どれくらいだろう、もう30年近く前になるんですけど。海外に行って、向こうの彫師さんのやっていることを見て針の組み方とか勉強したりとか、そういった感じでしたね。ニードルとかもジグを使って、並べて作るような感じだったんですけど。プリメイドが無かったですからね。

おそらく、彫日出さんもそんな感じだったと思うんですけど。

結構大変な作業だったんじゃないですか?

彫日出

当時は当たり前にやっていたけど、今思えば時間もかかるし大変な作業だったね。まとめて作って、パックに入れて。その頃はオートクレーブも手に入らいないし、専用の滅菌用のパッキングの袋とかも無かったんで。あとなんか、錆びないように、錆止めとして白い小麦粉みたいなのを塗ったりとか。
そう言えば、あの時代は針の消毒用として彫り場にイソジンも必ず置いてあったでしょ(笑)。

最初は圧力鍋(笑)。針やグリップなど滅菌が必要な器具は圧力鍋で滅菌作業してたね。医療現場とかにはオートクレーブもあったのだろうけど、一般人が簡単に買えるようなものではなかったですしね。

■既に組んであって、開封して使える状態のプリメイドニードルが販売され始めて、すぐ広まったのですか?

彫日出

いや、初期の頃なんかはプリメイドの方が質が悪くて。 自分で作った方がキレイで使いやすいっていう時代で。そこから段々とプリメイドニードルのクオリティーが上がってきて、試しながら使うようになった感じだね。

ESTO

僕も最初はずっと自分で作ってたんですけど、知り合ったスペインの彫師さんのお父さんがが針を作る仕事をされてて。その当時は日本にプリメイドニードルは流通していなかったんですけど、そのお父さんが作った針を持ってきて使い始めました。今流通しているニードルと同じ感じでブリスターパックで滅菌されているもので。
それを購入して使っていたら、その内に現在のようなプリメイドニードルが出回るようになってきて…という感じでしたね。

今はカートリッジニードルをタトゥーイングに使用されてますか?

ESTO

そうですね。カートリッジニードル専用のペン型マシンばかり使用しているので、全部カートリッジニードルですね。日本で出回ったのは10年くらい前だと思うけど、僕が使い始めたのは、それよりも5年くらい前からですね。オーストラリアに行って、最初Cheyenneのマシンをみんな使用しているのを見て興味を持ち始めて。
当時はずっとFK Ironのロータリーマシンを使ってたんですけど、僕がすごい尊敬しているアーティストが「ペン型の方がいいに決まってるから」みたいなことをいうから、じゃあちょっと使ってみようって。FK Ironのペン型タトゥーマシンを使い始めましたね。

最初はライニングはコイルマシン、シェーディングやパッキングはペン型マシンっていう面倒臭い使い方をしてたんですけど、最終的に全部ペン型マシンに移行しました。

彫日出さんはコイルマシン&プリメイドニードルでタトゥーイングされてるようですが、何かコイルマシンに対してこだわりがありますか?

彫日出

コイルマシンでプリメイドニードルです。ペン型のカートリッジマシンって、コイルマシンのようにアマチュアバーを指で触ってマシンの強さを測れないでしょ。パワーサプライの数字(ボルト数)じゃなくて、俺はあそこが全てに対して重要なので。

施術を受ける人とか部位によってマシンの強さは変わるし、結局一定のパワーサプライの数字では彫れないんで。そこで使わなくなった…というか、使えないなって思ったのがきっかけだった。

逆にESTOさんは、ペン型のマシンでどうやってマシンの強さを感じていますか?

ESTO

まず、カートリッジのメーカーによっても取り付けられている、スプリングの役割をしているメンブレンの硬さの差で動きや強さが違うじゃないですか。なので、同じカートリッジを使用するようにはしているんですけど、違うメーカーのカートリッジを使った場合は、皮膚のリアクションというかリターン?刺したときの感触みたいなので測っているというか。

コイルマシン/カートリッジマシンで、インクによる相性などを感じる事はありますか?

ESTO

現代のインクの話ですよね?現代のインクでコイルマシンを使ってないんのでなんとも言えないですけど、そこまで変わらないような気はします。コイルマシンを使用していた頃からあるエターナル(Eternal)とかフュージョン(Fusion)とか、今も使いますけど。そんなに変わらない印象です。

彫日出

なんか、「このインクは、手彫りにいいだろう」みたいなのはちょっと感じるけどね。インクによっては、なんとなく粉っぽい色ってあるじゃないですか。白とか肌色とか、粉っぽく入るインクは多分手彫りにいいんだろうな、とか。
シャバシャバ/ドロドロとかではなくて、うまく言えないけど、粉っぽいというか。

普段メインのタトゥーインクは何をお使いですか?

ESTO

今だとこれ!みたいなのはないですね。特定のインクメーカーで手に入らないカラーは、異なるメーカーを使用したり…みたいなのが結構あって。バラバラではありますけど、一番多く使ってるのがインテンツ(Intenze)やエターナルが結構多いかな、と。フュージョンも使ったりしますし、ラディアント(Radiant)も評判良いですよね。

彫日出

ソリッドインク(SOLID INK)が多いね、俺。
俺自身もだけど、ウチのスタジオはSOLID INKを使うアーティストが多いね。

逆に嫌いなインクメーカーなどあったりしますか?

ESTO

このメーカーが嫌というよりは、嫌いではないけど色によって、このメーカーのこの色は入りづらいな、発色が思ったように行かなかったり、とかはあったり。使いこなせてないだけなのかもしれないですけど(笑)。

強いていうなら、SOLID INKは硬いというか、重ためのインクなので、入れるには少し苦労するというか。そのままインク原液で使うと大変かなってぐらいですかね。インクソリューションやインクミキサーとかで薄めて使う仕様なんでしょうね。

彫日出

俺はそもそもインクを原液では使わないね。薄めるというか、彫りながら精製水にチョンとつけて使うから、インクが原液のまま肌の上にはいかないかな。どのインクもそうしてる。バキって入れる彫り方というか、はしないんで。
和彫りで刺青を覚えた際に、マシンで彫ってた師匠の”透き通った、透明感のある色の入り方”が今でも好きで。洋彫りで仕上げる場合でもそうやって仕上げたくなっちゃう方で。多分それを再現するのに、自分で編み出した、作品の透明感を作る自分のやり方、ですね。

それは、インクカップの段階で予め希釈しておくのとは違うのですか?

彫日出

違いますね。「ここは原液に近い感じで…」とか、彫る範囲によって繊細に濃度を調整することもありますし。

俺とESTOさんは本当、彫り方が全然違って。ESTOさんは本当、エアブラシみたいに彫っていくから。俺の彫り方だと多分、水が邪魔になってくるでしょ?

ESTO

はい、そうですね(笑)。

彫日出

だからまぁ、どっちが正解とかはないと思うけど、アーティストとしての表現の違いというか。

ESTOさんはタトゥーイングで使用するインクを全色、最初に用意するでしょ?
普通はというか、一般的には、まず最初に黒系を用意して、ライニング/シェーディングを終わらせる。その後カラーリングに入る前にカラーのタトゥーインクを準備して、みたいに段階的に施術を行うと思うけど。

俺なら最初に全色用意したら施術途中に乾いちゃうけど、ESTOさんはタトゥーイングがめちゃくちゃ速くて、インクが乾く前に全部仕上がっちゃうんだよ(笑)。

■ESTOさん、そんなに早いんですか?例えばこれくらいの作品だったらどれくらいの時間で完成しますか?

ESTO Instagram @enotse06より
ESTO Instagram @enotse06より

ESTO

これはタバコちょいくらいの大きさなんですけど、2個彫って2時間半とか、そんなもんですね。

この作品には何色使用されてますか?

ESTO

えっと何色だったかな…黒1色と、赤が2色、紫が2色、グレーが3色、黄色の目のところの茶色と黄色2色で3色。別の茶色が1色。白もハイライトで1色。大体12色ぐらいですかね。

色数も想像より多いんですね。施術順は決まっていますか?

ESTO

適当…ですよ。

彫日出

適当ではないでしょ、なんかあるでしょ(笑)。

ESTO

いやいや、適当ですよ(笑)。というかその時のフィーリングで進めて行くので、ルールみたいのはあまりありませんね。
黒は最初に入れますし、明らかに薄い色は後半にしますけど、下から順番に彫ってったりとか、横からとかもありますし。その時々に感じで。ですね。

サプライの質の向上とともに、タトゥーの表現で変わってきたところはありますか?

ESTO

そうですね、昔とくらべて圧倒的に表現力と言うか。
昔は「ブラックアンドグレイだったらこんな感じ」みたいなのがありましたけど、今はウィップシェーディングとか、グレイのインクを使用したブラックアンドグレイだったりとか。マシンの進化とか、インクの進化でかなり表現の幅は増えたんじゃないですかね?

例えばカラーインクとかでも、昔出せなかった、定着しなかったカラーが、マシンやインクの進化で表現できるようになったのは影響がデカいんじゃないですかね。「絵を描く時だったらこの色は使えるけど、タトゥーインクで肌にいれたらどうせ残らないよね。」とか、昔はそういうことがよくありました。この黄色は残らないとか。
そんなんも今はバチバチ残るし、クリーム系の色とかもバンバン出るじゃないですか。だから、インクの進化でできるようになったジャンルも増えたとは思います。

昔はカラーポートレートとかやっても、もう4~5年経つとスカスカになっちゃってたんですけど、今は4~5年経ってもめちゃくちゃ綺麗なままなんで。かなり表現やできる事の幅は広がったと思う。

彫日出

アフターケアもドレッシングフィルムでめちゃくちゃ進化しただろうね。昔はホントに彫った直後のタトゥーはカサブタになってたけど、今はもうほとんどカサブタにならない。そこが変わったのはめちゃくちゃ大きいと思う。

普段のアフターケアは、ユーザー(顧客)にどのように説明をされていますか?

ESTO

うちもGood Times Inkさんも、タトゥーの保護フィルムを3~4日貼りっぱなしにしてもらい、その後は剥がして洗って、保湿ですね。

彫日出

アフターケアはタトゥーの出来を左右する大事な工程なんで、アフターケアの説明をしっかりと書いた紙を施術後にお客さんに渡してます。THE INKでも扱ってる、BOKUSAIのInked Gelも保湿力が高くて、タトゥーのアフターケアにはめっちゃ良いと思いますよ。

これまでの30年間のタトゥーシーンをご覧になってきて、印象や変化など感じることはありますか?つまらなくなった、面白くなくなったとか。

彫日出

彫師、タトゥーアーティストの業界って本当、良いこともあれば悪いこともあるけど、流れとしては良い方向にしか行っていないと思うけどね。

俺の一個人的な話でいうと、もう少しアンダーグラウンドなタトゥーの格好良さっていうのは絶対そこにあったんで。俺はそこが懐かしいし、格好いいなっていうのは変わらないですね。
今は皆、若い子が顔に入れたり首に入れたり。確実に昔の日本には無かったことなんで。良いこともあれば、悪いこともある。という感じです。

まぁでも、不良やそれに近い人間じゃないとできなかった彫師、タトゥーアーティストの仕事が、不良じゃなくても出来るようになるって、ある意味では素晴らしいことだと思うんで。一昔前では絶対になれなかったからね。

ESTO

昔はちょっと悪い人が絵を勉強して彫師になるイメージだったんですけど、今は例えば、美大出身から彫師になったり。タトゥーのアート性が強くなったのかなっていう。色々なジャンルが派生していって、いろんなアーティストが増えたっていうのは、すごく良いことだと思います。

ただ、ちょっと彫師になるのが簡単になりすぎたかなっていうのも、思うところはあります。

彫日出

ただ、パッと始めるのは簡単かもしれないけど、ちゃんと仕事としてメシを食えるっていうのは簡単ではないと思うんで。一人で始められるなら、始めてみたらって思いますね。ポジティブな意味で。

■最後に、THE INK/タトゥーサプライの実店舗にお越しいただいてありがとうございました。感想などいただけますか?

ESTO

いやもう、最高です。ありがとうございます。できれば近いところ(関西圏)にあればいいんですけど…。

やっぱり実際に手に取って商品を見れたり、説明を聞いたりできるのはすごくありがたい。やぱりタトゥーインクのカラーって、実物を見ないと想像がつかないんですよね。その点では実際に手に取って、目で直接見れるのは、すごく嬉しいです。

彫日出

はい、めちゃくちゃいいなと。すごく綺麗に陳列されてるのもいいなって。
まぁ、コイルマシンが沢山あったら尚、良いなぐらいで(笑)。でも今ってオートクレーブを使わずに全てディスポーサブル(使い捨て)のスタジオもあるでしょ。まぁ、そういうことでしょうね。

あとは、これからタトゥーを始めたいっていうタトゥーアーティスト志望の若い人に向けて、注意事項じゃないけど、セッティングや衛生管理、バリアの方法とか、基本的な彫り方のマニュアルをパンフレットで置いたりしたら良さそう。立派な彫師を輩出する一助になるような場所や存在にTHE INKがなれば良いのかな、と思います。

●おわりに

タトゥーマシンやニードル、インクなども含めた日本タトゥーの現代史を、生で体感しながら活動して来られたお二方にとても貴重なお話を伺いました。

進化や変化には良し悪しを感じるところは各アーティスト・ユーザーにも差があるかも知れませんが、大きな流れとしてはアーティストの努力や探求心によるタトゥーイングの技術やタトゥーサプライの進化も起因となり、タトゥー表現や愛好者の多様性の拡大に向かっていて、それはアーティストにとってもタトゥー愛好家のユーザーにとっても幅広い選択肢が増える事による、”自由”に繋がって行くのだろうと感じました。


お二方、どうもありがとうございました!
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■■お二方の主宰するスタジオ■■

二代目 彫日出さん主宰 Good Times Ink(大阪アメ村)

@goodtimesink
大阪市中央区西心斎橋2-12-14 オーシャンドライブ4F
オフィシャルWEBサイト: https://goodtimesink.jp/

ESTOさん主宰 Jade heart tattoo(大阪アメ村)

@Jade_heart_tattoo_osaka
大阪府大阪市中央区西心斎橋2-8-33 大阪センタービル アメ村スクエアー 1F 17号

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